市丸隊長は女の子なら誰にでも優しいから、きっと私にしてくれた事は隊長にとって

        普通のことで覚えていないと思う。


        それでも嬉しかったんだ。





         Cndy




         あの日は書庫で、頼まれ物の本を探していた。

         ようやくその本を見つけたのはいいのだが、その本は手が届くか届かないかのギリ

         ギリの所に並べられている。

         踏み台も見当たらないので、必死に背伸びしながら手を伸ばすのに一向に届かない。


         「もうちょ っとっ」


         足がフルフルと震えてくる。

         すると、背後から誰かの手が伸びて来ると、その手は軽々と欲しい本を取り出した。

         目を大きく見開き後ろを振り向けば、そこには三番隊隊長市丸ギンの姿…


         「あ…」

         「はい、取りたかったんこれでいい?」

         「… はい」


         長い間つかわれた形跡のないそれは埃をかぶり白くなってしまっている。

         ギンは本を覆う埃を手で叩き落とし、綺麗になった本をに渡した。


         「どうぞ」

         「すいません、ありがとうございましたっ」

         「ええよ」


         愛想のよい笑顔を浮かべるギンに深々と頭を下げ、受けとった本を胸の前で強く抱き

         しめる。


         「ほな、またね」


         風のように去っていくギンの背中を見えなくあるまで見つめた。


         「カッコイイ…」


         その体勢のまましばらく動けず、本を握り締めていた。














         それから、三番隊に入りたくて一生懸命キャリアを積み、念願の三番隊の移動が認め

         られたのだ。

         三番隊に入ったまでは良かった。

         ギンに憧れて入隊したにとって知りたくないことまで知ってしまい、ギンに幻滅し

         てしまった。

         カッコ良くて、優しくて…王子様みたいな人。

         そう思っていたのに、今のギンにはカッコ良くて、優しいまではいいとして、それに

         女好き、優柔不断、不真面目が付け加えられている。


         「はぁぁ、こんなはずじゃなかったのに」


         現にが今やっている仕事はギンが遣り残した仕事、まだ自分のだって終わっていな

         いのに…


         「これじゃぁ残業だよ…」


         これから仕上げなければならない用紙をパラパラと捲り、溜息をつく。



         ―――純情を、返して…



         「ちゃーん、大変そうやねー」


         唄うようになまえを呼ばれ、よく知る声にもう一つ溜息が漏れる。


         「あかんよ、溜息したら幸せが逃げていくんやで」

         「ちゃんと仕事してください」

         「いやぁ、ボクには向いてへんねん」


         の隣に座わり、紙の上を走る筆先を目で追っていく。


         「もう…向いてへんねんじゃないですよ」


         今は暇人の相手をしている暇はない、早く仕事を終わらせなくてはいけないのに。


         「ちゃん、こっち向いてやー 相手して欲しいなぁ」


         「… 隊長。私が今、なにしてるかお分かりですか?」

         「仕事やろ?」

         「分かっていらっしゃるなら邪魔しないで下さい」


         ここで負けてギンの相手をしてしまったら後でどれだけ仕事に追われる羽目になるか

         はもう経験済み。

         あんな経験はもうしたくない。


         「冷たいなぁ… あ、逆剥けできてんよ」

         筆を持っていない方の指に人差し指の逆剥けを見つけ、その部分に手を伸ばしていく。


         「触らないで下さい、痛いの嫌なんです」

         「ケチ」

         「はぁ 隊長そろそろ行かないと隊長会議始まっちゃいますよ」

         「もうそんな時間かいな… よっころらしょ」



         ―――これで仕事が進む…



         ギンは重たい腰を上げ出て行くのかと思いきや、ギンは中腰になると自分の服の中を

         探りはじめた。


         「市丸隊長?」

         「んー… あったあった」


         一旦手を止めてギンの様子を伺う


         「あーん、してみ」

         「はい?」

         「ホラ、あーん」


         するまで止めてくれそうにないので、渋々口を開けた。


         「あーん、 んーっ?!」


         甘い味と、ころころとした玉のような物が口の中に広がっていく。

         ギンの手には、カラフルなビニール紙に包まれた小さな飴玉が一つ。




         ―――それよりも、それよりも……!



             指が…っ くっ唇に 。





         口の中に入れられる時にギンの指が当たってしまい、その時うかつにもドキッとして

         しまった。


         「おいしい?」

         「…おいひい」

         「よかったわ、ちゃん機嫌治ったみたいで」


         誰のせいだと思ってるのよ…


         「直ってマセン」

         「ほんま素直やないんやから、まぁそんな所も好きなんやけどね」

         「冗談も嫌です」

         「実はな、ちゃんがボクんとこ移動するように仕向けたんボクなんよ?」

         「…はぃ?」


         ギンは残った飴玉の包みをを取り、自分の口に放りこむ。



         「おそろい」




         そのままを残し、隊長会議へ向かってしまった。


         「何なのよ… もう」


         頭を抱え、低く唸った。




         今の市丸隊長も…


             キライ、   じゃない








        

















        *あとがき*
         甘いー…