一目惚れ
ボクの奥さんは貴族のお嬢様。
結婚といっても戸籍上のものだけのこと。
むしろその方が楽だと思っていた。
なのに現実はそうでじゃかった。
「おかえりなさいませ、ギン様」
「ただいま」
「まだ起きとったん?」
「はい」
もうみなが寝静まる時間なのには起きてギンの帰りを待っていた。
ギンが遅くなる日はいつもこうして起きていてくれる。
「寝ててもええんやで?」
「いえ、そんなわけには…」
もじもじと恥ずかしそうにギンから視線を背けた。
ギンと共に生活を始めてからというもの、は時々こんな風に恥ずかしそうな表情
を浮かべている。
それが不思議で仕方ない。
「もうええから、寝とき」
「……はい」
少し寂しそうにそう言うと、とぼとぼと歩き始めた。
一度ギンの歩を振り返るが、何もいわないまま寝室へ向かった。
「なんで、あんな顔するんやろ…」
真っ暗な寝間。
そこに並ぶ二枚の布団の片方の上に座り、ギンが寝る方の布団を見つめた。
「うっとうしいと思われたかな…」
毎晩遅いのは、他の人とお酒を飲んでいたり、遊郭で遊んで来るから。
家に帰れば私がいるから。
好かれていないのは分かっているけれど、どうしてもココを離れることが出来ない。
だって、ギン様のことが好きだから……。
はぁ…と溜息をつこうとしたとき、静に襖が開く音が部屋に響きわたった。
は慌てて布団の中に潜りこもうとするが間に合わず、上布団を捲っただけの
不自然な格好のまま戸を開けた人物と目が合う。
「あ……」
「なんや…まだ寝てへんかったんか」
「いえ、あ、いま寝ようと…」
「起きとるんやったら、灯りぐらいつけな驚くわ」
「ごめんなさい」
また嫌われたと思い、しゅんと俯いた。
こんなはずじゃなかったのに、どうしたら好かれるんだろうか。
「なんでなん?」
「え…?」
「毎晩、遅うまでボクの帰り待ってて…なんで遅う帰ってくるかも知らんと」
「ッ……」
冷たい声が聞こえてくる。
そんなの知ってるよ、わたしはなにも知らないお嬢様じゃないのに。
自然と溢れ出しそうになる涙を堪え、布団をきつく握った。
「そないに一生懸命にならんでもええのに、戸籍上だけのこと…」
「知ってる」
「ん?」
「知ってる!夜遅いのは、お酒飲んだり遊郭で遊んでるもの……玄関でわたしの顔
見る度に一瞬眉をしかめるのも…」
堪えていた涙がとうとう零れだし、それを拭うが一向に止まりそうに無い。
「知ってて待ってるんは…なんでやの?」
「そんなの、好きだからに決まってるじゃないですか」
「好きって…本気なん?」
「嫌ですか…? わたしが妻じゃ嫌ですか?」
初めて会った日から好きになっていて、あれはきっと一目ぼれだった。
こんなステキな人の妻になれるのが嬉しくてたまらなかった。
「綺麗や」
「ギンさ、ま?」
必死なの瞳に吸い込まれるちく感覚がする。
瞬間に綺麗だと思った。
今まで出会った誰よりも、薄暗いこの部屋でよく見えないはずなのに。
なんでだろう、今すぐ抱きしめてやりたい。
「嫌やないよ」
「え…?」
「なんやろね、ボクもが好きなんかもしらへん。 今すぐ抱きしめたくて仕方
ないんや」
の返事も聞かずに、手を引いてギンの腕の中にを閉じ込めた。
驚くは、されるがままに身を堅くした。
「アカン…好きかもしれん」
耳元でそっと呟けば、びくりと身を縮ませ耳まで赤く染めた。
これはきっと、一目惚れだ。
「よお、市丸」
「剣八さんやん、どないしたん?」
「今夜も一杯どうだ」
「あー…あかんわ。今日ははよかえらなアカンねん」
「は?女がいるから帰りたくなかったんじゃねーのかよ」
「まぁ色々あってん」
"飲むならウチで飲もう"と言うギンに言われるまま行くことになったが、
「ただいま」
「おかえりなさいませ、ギン様」
笑顔で玄関をくぐるギンと、それを笑顔で迎える妻のの姿を見せ付けられる
こととなったのだった。
*あとがき*
ぐだぐだ祭り。汗
ギンちゃんの誕生日ゆわーい!
おめでとう!