反応する間もなく正装をした黒髪の背の高い人、紛れも泣く白哉が入ってきた。

        テーブルに顔を着けているとそれを立った位置から見下げる白哉の目がぶつかる。

        人間本当にピンチの時には早く動けないらしく、ものすごい遅さで顔を上げきちんと

        座りなおした。



        ―――み、見られたっ!!



        白哉も白哉で何か突っ込んでくれればいいのに、何も言わず黙って席に座ってしまう

        から変な空気が流れている。

        どうしようと思い、泣きそうになりながら挨拶しなければと思い口を開いた。


        「ほん… 本日はお招きいただきありがとうございます」


        深く礼をしながら、チラリと白哉の方を盗み見るがやっぱり何も言わずに軽く礼をし

        てくるだけ。



        ―――何か言ってよ… あー…。



        「お初にお目にかかります、です」


        すると、初めて白哉が口を開いた。


        「…初めてではない」


        「そう、でしたっけ?」


        そうだったっけ?と思ったが、向こうがそう言うならそうなのかなと思いあえて深く

        は聞かなかった。


        「あの…」

        「何だ?」


        は顔を上げて白哉の顔を見上げたが、すぐに下を向いてしまう。

        とても白哉を直視できそうにない。


        「親同士が勝手に決めたことですし…その、断られても全然構いませんの、で」


        たどたどしい口調でしか言葉が出てこず緊張しているのが誰から見ても分かる程だっ

        ただろう。


        「それは断りたいと言う事か?」

        「え、と…そういう訳ではなくて」


        おかしな展開になってきた…

        断るはずなのに、とても断れる雰囲気ではなくなってきている。


        「こちらは何の問題もない」


        目の前のクールビューティーをぽかんと見上げた。

        この人は正気なのだろうか。

        それからただ沈黙が続き、時が過ぎるのを待つしかなかった。

        時間の進む速度が恐ろしく長く感じる。

        こんなにゆっくり時が過ぎていくのを感じたのは初めてで、時間が過ぎていくのが苦

        痛に感じたのも初めだった。











        どのぐらいか時間がたった頃、この場から脱出する為の救いの手が現われ、


        「失礼いたします。白哉様、様そろそろよろしいでしょうか?」

        「わかった」

        「はい」


        救いの手にやってきたのは白哉に仕える老翁で、何もいわない二人を見かねて声をか

        てくれたのかもしれない。

br<         「返事は後日うかがう」

        「わ、かりました」

        「では失礼する」


        それだけ言うと白哉は立ち上がり、老翁と供に部屋を出ていってしまった。



        ―――ドサッ



        戸が閉まると同時には畳に倒れ込んだ。


        「何 で…?」


        何事もなく淡々と婚約の方向に向かっている。

        けれどもは、もう精神的に疲れ果て考える気力もなくなっていた。


        「つかれた…」








        廊下を出て直ぐ、老翁は白哉に話し掛けた。


        「家のご息女様、お話に聞いておりました通り可愛らしいお方で」


        すると、先ほどまでいた部屋から"ドサッ"という何かが倒れ込む音が聞こえてくる。


        「そうとう緊張しておいでだったのでしょう」

        「そうだな」


        下を向き、微かに微笑んだ。








        

















        *あとがき*
         出会ってしまいました…(ハラハラ;)