白哉と会ってから2日が過ぎた。
その日の夜、久しぶりに家に帰ってきた両親に朽木家との縁談の事を問い詰めてい
た。
「縁談相手が朽木家ってどういう事なの?!」
聞いても聞く耳を持たず、相手側からの求婚に祝い酒まで飲む始末なのだ。
何をいっても聞かない二人に怒ったは、大きな音を立てて戸を閉めながらその場
から逃げだした。
どかどかと乙女らしからぬ歩き方で部屋に戻る途中、立華と若い女官に出会い、す
こぶる機嫌の悪いに、あらあらと言いながら機嫌を伺ってくる。
「どうかなさいましたか?」
「こんな家もう嫌っ 家出してやるんだから!」
は叫び、玄関へ向けて走り出した。
「あらまぁ」
走り去るに「困ったお嬢様ね」と焦る様子もない立華とは逆に若い女官は慌てな
がら
「止めなくてよろしいんですかっ?!」
「心配せずとも、明日にはお帰りになられるわ」
「しかし…」
「お財布も死神装束も置いて、行かれてどうするおつもりかしらねぇ…
「はぁ……」
家を飛びだしたは、夜の瀞霊廷あてもなく歩き回っていた。
辺りをさまよううちに段々と頭が冷め、財布も何も持たずに出てきてしまった事に
気づき始めてくる。
「はぁ… これからどうしよう」
足元の小石を蹴飛ばし、転げていくそれを追いもう一度蹴飛ばす。
「大きな月…」
空を見上げるとそこには真っ白な満月が浮かんでいる。
「きれい…」
満月の神秘的な光に魅入られ、しばらく月を眺めた。
すると遠くから誰かの足音が聞こえてきた。
―――こんな夜に誰だろ …
足音は前方からのもので、立ち止まり足音の先をじっと見つめる。
見てくる人影。
息が止まるかと思った。
そこには今宵、空に浮かぶ月のような人…―。
「朽木 隊長…」
仕事帰りで死神装束のままの白哉もに気づき、不思議そうな顔を浮かべる。
「、」
「こ、こんばんわ」
「…何故ここにいるのだ?」
「そ れは…朽木隊長こそどうして?」
この年でまだ家出しているなんてできれば言いたくない。
「今宵は、月が美しいからな」
「 そうですね…」
「で、何故ここにいるのだ?」
「えー…ぁ それは… い、ぃ家出です」
最後の家出の部分はゴニョゴニョと言い、誤魔化してみるものの白哉にはしっかり
聞こえており、呆れた目で見られている。
―――だから言いたくなかったのに…
「行くあてはあるのだろうな」
「まだ… 決まってないです」
「そんな事だろうと思った、あてが無いならうちに来い」
白哉の言葉に耳を疑い、目を見開いた。
朽木家に泊まれと…
家出の原因の家に泊まる離しなど聞いた事がない。
またおかしなことになっている。
それになぜか、どうも白哉の言う事に上手く断れない。
だから今も断らないまま白哉の背中を追って無謀にも朽木家に泊まりに行こうとし
ているのだ。
「あの、 私なんかが朽木隊長のお屋敷に伺っても…」
「私の家だ、かまわない」
「そうですか…」
このことが立華に知れたら何て言われるか分かったものではない。
そうこうしているうちにお屋敷にたどり着いてしまった。
これで早くも二回目の訪問だ。
時間も時間な為、前のように出迎えの様子はない。
それでも不安で白哉の服の袖を少しだけつかみ、背中に隠れながら中へ入っていく。
の袖を掴む手をちらりと見るが、何も言わず前を向きなおした。
「あの、ここは…?」
本殿から渡り廊下を渡り連れてこられた部屋、というより家に近いここを何食わぬ
顔でこう答えた。
「私の寝室だ」
「寝室…っえ?」
「案ずるな、の寝間は隣の間に用意させる」
それも十分問題があるよ、と心の中で叫びつつ部屋へ案内された。
すると、即座に女官が現われると白哉に命じられの寝間を用意し始めていく。
用意し終わるなりすぐに本殿へ帰っていき、白哉も自室の方へ戻って行ってしまう。
広すぎる部屋に一人残されたは、しばし布団と睨めっこ状態が続く。
「寝ないとだめだよね… 明日も任務あるんだし」
布団に潜り、目を閉じる。
が、目は冴える一方で一向に眠れない。
「眠くならない はぁぁ…」
何度目かの寝返りをうち、白哉の部屋との境の壁を見た。
「 朽 木 白 哉」
街道であったときの白哉の姿が目に浮かんだでくる。
「もしかして、私を心配して連れてきてくれたのかな?」
まさかね、と言いながら今度は布団から抜け出し、外の様子でも見て眠気を起こさせ
ようとそろそろと廊下へ出て行く。
すると、そこには既に先客の、白哉の姿があった。
柱に体を預け夜空を眺める儚さが漂う横顔。
「 ゎ… かっこ いい」
無意識に口から出た言葉に、はっと口を手でふさいだ。
しかし、白哉から何の反応も無いため見つからないうちに、また部屋へ戻っていく。
その時、白哉の声が振ってきた。
「・・・眠れないのか?」
「ぇ…あ、 はい」
このまま部屋に戻るのも何だか気が引けて、部屋に帰らずに白哉の隣まで歩み寄ると
膝を立てて座った。
「、朽木に入るのは嫌か?」
「そ、それは……」
空を向いたままの白哉に急に言われ、どう答えていいのか分からず黙ってしまう。
すると、白哉は答えられないでいるの隣に腰を降ろした。
「…朽木隊長が嫌という訳ではなくて、その…よく知らない方の所へ行くのが嫌な
んです。 だから…」
「なら、もっと知ればいい」
「ぇ …」
射抜かれるような真っ直ぐな視線での瞳を見つめながら
「私ものことがもっと知りたい」
そんな反則な言葉を、真剣な顔で囁いた。
も返事を言いたかったのだが、白哉の視線と言葉にやられてしまい声が上手く出
てこず、コクンと首を上下にさせ頷いた。
*あとがき*
早く下の名前で呼び合うようにしなければ!