小鳥が囀りあう朝、小窓から差し込む朝日に顔を明るく照らされる。
はその眩しさに眠りの世界から引きもどされていく。
「ふぁぁ…んー…」
背を伸ばし、体を起こせばソコは見知らぬ部屋と布団の中にいる。
起きたての寝ぼけた意識の中でキョロキョロと辺りを見回した。
しばらく時間が経つと時間差でようやくここが朽木家のお屋敷なのだと思い出した。
「そっか…昨日泊めていただいたんだっけ」
目を擦り、体温で温もった布団から抜け出す。
ふかふかな掛け布団を捲り、敷布団の上でちょこんと正座をした。
「これからどうしたら…とにかく仕事いかないと」
寝る前に借りた寝巻きの帯に手をかけ、寛がせる。
そして、そのまま着替えを取ろうとした時ようやく重大なことに気づいた。
「しまったっ 死覇装が…ない」
とりあえず、枕元に畳まれた昨日着ていた服に着替えた。
どうしようと困っていると、ちょうどタイミングよく誰か障子を叩く音が響
いてきた。
「はい、どうぞ」
「失礼する…」
開かれた障子戸の先には白哉の姿があり、もう既に着替えを済ませいつでも
出勤できると言った感じである。
「…おはようございます」
「あぁ…」
すると、の服を見るなり
「今日は非番か?」
「いえ…今日も仕事で、けど死覇装を家に置いてきてしまって」
寝癖を触りながら、講師分けなさそうに笑った。
白哉の顔を覗き見ると、案の定深い溜息をついているのが分かった。
「家に取りに帰る時間はなかろう」
「はい…すみません」
ぎりぎりで家に取りに帰ることはできるのだが、出てきた手前上、死覇装を
忘れたといって帰るのは間抜け過ぎる。
それだけは何とか避けたい。
「仕方ない…私のを着るといい」
「朽木隊長のをですか?!」
「嫌か?」
「め、滅相もございませんです」
低い声で言われ、思わず身を引いた。
「他に方法がない、丈が合わんとは思うが仕方ない」
「はい…お借りいたします」
直ぐに使いの者を呼び寄せ白哉の死覇装を持ってこさせた。
それを受けとり、に手渡す。
受けとれば、広げずともの丈より大分大きいのが分かった。
白哉は受け渡すと直ぐに部屋を出て行ってしまった。
一人になった部屋で改めて服を広げてみる。
「おっき……」
まじまじと見つめ、袖を通していく。
袖を通すが手が出てこず、余った部分をぷらぷら揺らした。
「小さい頃に大人の人の服着た時こんなのだったっけ」
くすくすと笑いながら、次に袴を履いていく。
これもまた足が出てこず、現世に行った時にテレビで見た奉行所の役人のよ
うになってしまっている。
「足長いんだ…」
感心しつつ、試しに動いてみると2、3歩歩いただけでつまずいてしまいそ
になった。
「これは、危険ね…」
裾と袖を何度も捲くることでようやく手首と足首が顔をだしてくれる。
「一日ぐらいなら、何とかなるよね」
最後にもう一度襟を締めなおす。
よしっと気合を入れ、障子戸を開けた。
「わっ!」
障子戸のすぐ側の壁に白哉はもたれ掛っていたのだ。
出てきたを上から下まで見渡し、目を丸くする。
「変…ですか? 変ですよね」
「……フッ」
「な、なっ!」
笑いを堪え、から顔を背けた。
背けた尚も笑いを堪えているように見えるのは、おそらく間違えではない。
「し、仕方ないじゃないですか コレすっごく大きくて」
「その様だな」
「あ…―っ」
の方を向きなおした白哉の表情に顔がボッと赤く染まっていった。
「あまり時間がない、行くぞ」
「え、あ、はい」
――――びっくりした……あんな顔で笑われるんだ。
赤い顔を見られないように白哉の後ろに着いて歩いた。
「ー、オハヨーッ… どうしたのそれ?!」
「乱菊…おはよう」
乱菊は、ぶかぶかの死覇装を着込むを見るなり笑い始めた。
「あははっ 何それ!プププ かわいー」
「う、うるさい」
「ごめん…はは 可愛いじゃない」
「全然嬉しくないんですけど」
恨めしそうに乱菊を睨む。
こんな風になるなんて、思っていた以上の出来だ。
「ほんとだって、あ、朽木隊長」
「どこ?!」
指差す方は達の前方で、正しく白哉がこちらに向かって歩いてきているの
が確認できる。
と乱菊に気づいた白哉とばっちり目が合ってしまった。
すぐソコまで来た白哉にとんでもないことを乱菊が聞き始めた。
「朽木隊長も可愛いと思いませんか? このぶかぶかな死覇装着てる子」
「乱菊っ!!」
もっと気さくな人ならまだしも、よりにもよって白哉にそう聞くものだから
ばかばかと思いつつ乱菊の体を激しく揺さぶる。
「… そうとも取れんこともない」
白哉の声に揺さぶる手を止めた。
「ほら、朽木隊長も可愛いっておっしゃってるじゃない」
「うっ、朽木隊長まで…」
それから今日一日、ぶかぶかな死覇装を出会う人皆に突っ込まれ、笑われた
のは言うまでもない。
*あとがき*
白哉の大きい死覇装を着せたかったというアレです。