「猫?」
目の前を真っ白な猫が通り過ぎていった。
護廷内になんで猫が、と不思議に思いその猫の後ろをついて行くことにした。
歩く姿や長い尻尾を振る姿はどこか優雅で気侭そうなその姿はある人を思い出させ
た。
「朽木隊長みたい…」
「朽木隊長、これに目を通しておいてください」
「あぁ、」
恋次は隊長室にいる白哉に書類を渡し、出来上がった書類を回収していく。
「お茶でも入れますか?」
「今はいい…下がってよい」
「はい、失礼します」
恋次が出て行き、隊長室の中はまた一段と静になった。
椅子の背もたれに背を預け、恋次が持ってきた書類に目を通していく。
すると、裏庭の方から妙な声が聞こえて来た。
注意深く耳を傾けてみれば、再び聞こえてくる。
「にゃぁー」
「猫?」
猫……にしては変な鳴き方だ。
まるで、人が真似をしているような声である。
「やっと止まってくれた、鳴き声似てたのかな?」
「みゃぁ」
聞き覚えのある声にはっとして隊長室から裏庭が覗ける小窓を覗き込んだ。
「…やはり、か」
予想を裏切ることなくの姿はそこにあり、真っ白な毛をした猫とじゃれあってい
るのが確認できた。
けれど、なぜここにと白猫がいるのか疑問が浮かび上がってくる。
「ここ、来たことないや… にゃんこ、知ってる?」
「みゃぁー」
「おまえも知らないの? 困ったね」
返事などしてくるはずもない白猫に話し掛け、あたかも返事が返ってきたかのよう
に話すが可笑しくてどこか微笑ましさを思わせた。
白哉に丸聞こえなのも知らずにたま白猫に話し掛け続ける。
聞くつもりはないが、聞こえてくるのもを拒み様がないと自分に言い分けをした。
椅子に座りなおした白哉は尚も聞こえてくる可笑しく一方的な会話を耳に入れる。
「にゃんこ、おまえが羨ましいなぁ…仕事しなくていいし、自由気ままにうろうろ
できて、それにお昼寝し放題だもんねー」
白猫の喉の辺りをゴロゴロと掻いてやれば、気持ちよさそうに目を細め可愛らしく
鳴き声を上げてくる。
「ふふっ かわいいの。 おまえは女の子それとも男の子?」
猫なのだから雄か雌だろうと心の中で突っ込みを入れつつ、かわいいというを逆
にかわいいと思ってしまう。
「みゃぁ?」
「男の子だったら朽木隊長に似てキレイな人っぽい」
の言葉に手にもっていた書類を落としてしまいそうになった。
――――…何を言い出すかと思えば
そして話はまだ続き、白猫の頭を撫ぜながら
「朽木隊長…いつもツンケンしてて冷酷って感じだったけどね本当はお優しい方なん
だよ。 家出したときもお屋敷に泊めていただいて…それに服まで貸してくださっ
たの」
「みゃーん」
「それに格好いいんだよ。 けど私がお相手で満足していただける様な人じゃないん
だけどね…」
すっかり懐いて擦り寄ってくる白猫にも目を細める。
「はぁ…朽木隊長のことで頭いっぱいで何してても隊長のことばっかり…っておまえ
言っても仕方ないか」
そう言うに白哉は目を大きく見開いた。
自惚れしていいならば、それは丸でが自分を好いているように聞こえる。
格好いいと優しいと言われ、その上"四六時中あなたのことばかり考えている"となれ
ば好かれていると思わない男などいないのだから。
もし、本当にそうなのであれば…………
「みゃぁあー」
白猫を抱き上げようと手を伸ばした時、急にピクンと耳と尻尾を立たせると来た方と
逆の方に顔を向け、突然に走り出してしまった。
「あー…知らないところに置いて行かないでよー」
困った声が聞こえ、あの分では未だにここが六番隊の敷地内と気づいていないと思い
白哉は仕方なく椅子から立ち上がった。
「聞いてしまった詫びだ」
裏庭に回ると、まだそこで呆然と立っているの姿がある。
白猫が去っていったでろう白哉とは逆の方向を向いていた。
「話は終わったようだな」
「わっ?!」
急に声をかけられそうとう驚き肩をビクッと震わせる。
口が半開き状態で固まっていて、その様子に幼い頃飼っていた金魚を思い出した。
「猫はもう去ったか」
「なんでそれをっ…も、しかして…もしかしなくても聞いて」
顔の前で手を変な動きをさせ、目を泳がせる。
「聞いていたのではない、聞こえてきたのだ」
「す、すみません あの、いつから…」
「似ていない猫の声真似をしていた所からだが」
「あぁぁ……」
は頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。
優しい方とか格好いいとか…白哉のことで頭がいっぱいというのまで全部聞こえてい
たのかと思うと恥ずかしさでいっぱいににってしまう。
穴があったら入りたい。
「初めからじゃないですか」
「そういうことになるな」
「う゛ぅ…やっぱり」
しゃがみ込んだままのに微かに表情をゆるめる。
「でも、どうして朽木隊長がここに?」
「それはこちらのセリフだ、私の隊長室の裏庭だぞ 私がいて当然だろう」
「そ、そ、そんな遠くまで…本当に私ってば」
ますます小さくなり、そのまま横に倒せば起き上がり人形のように起き上がってきそ
うな程背を丸めた。
「帰れるか?」
「あ、はい 大丈夫です。すみません失礼します」
か細く消えてしまいそうな声を発する。
ようやく立ち上がると疲れきった顔でぺコリと一礼し、フラフラと歩きはじめた。
「……」
「? はい」
振り返れば、
「、私はお前が婚約相手なることに何の不満もない」
「ほ、ほんとうに?」
目を何度も瞬かせ、白哉を覗き込んだ。
「…いや、ないこともない」
「どっちですか」
「だが…今のままのお前だからいいのかもしれないな」
「よく分からないです」
「私がお前の全てを受け止めてやると言う事だ」
まるでプロポーズとでもとりかねないセリフに先ほどとは異なった恥ずかしさが生
まれてきた。
そんな恥ずかしい言葉を、この人はサラッと言ってしまうのだ。
*あとがき*
えっと、実は白哉はちゃんに惚れ惚れなんです!と言うのが
ね…書きたかったんです。
犬か猫か迷って白哉兄様はどちらかといえば猫っぽいから猫にしました。