「お帰りなさいませ、様」

         「はい…」


         帰ってきたのはの自宅よりはるかに大きく、数えるほどしか来たこと

         のなかったお屋敷。

         気づけば朽木家に衣服や日常品などが送られ、住むことになっていた。

         あの日以来、なぜか凄い速さで話が進んでいっているような気がするのは気

         のせいだろうか…。

         気のせいであってほしい。

         花嫁修業も兼ねてと言いくるめられて今ここにいるわけだ。


         「、帰ったか」

         「あ、朽木隊長。お早いお帰りですね」


         隊長の仕事は忙しい為、いつも帰ってくるのが遅く皆が寝静まったころに帰

         宅することもあった。

         そんな白哉の早い帰宅に驚いてしまう。


         「ああ、寂しがっているのではと思ってな」

         「さっさびしがってなんかいません!」

         「フッ、まあよい。仕事場以外は名で呼べと言ったはずだ」

         「う…はい」


         この屋敷に来たばかりのは白哉以外に話し相手もなく、白哉のいない時

         は、部屋に篭り時間を持て余すことが多かった。

         否定したものの、心の中では寂しかったのかもしれない。


         「先に部屋へ戻っていろ、後で向かう」

         「分かりました」


         屋敷の奥の方へ向かう白哉を見送り、自室へ歩き出した。

         明るい内から白哉と屋敷内で共に時間を過すのは、がこの屋敷に着た日と

         その次の日以来だったかなと思い出した。

         なんだかドキドキする。


         「もうすぐ結婚しなきゃいけない相手なんだから、早くなれないと!」


         「アレ…ここどこ?」


         考えごとをしていて、曲がる廊下を間違えたのか来たことのない部屋や置物

         が並んでいる。

         誰かに部屋の方向を聞こうと思い、人が居そうな部屋の戸を叩いた。

         「どうぞ」という声が聞こえ、遠慮なく戸を開けていく。


         「あっ……」


         は戸に手をかけたまま、その場に固まってしまった。

         息をするのも忘れる程、驚き、全身が固まってうごいてくれない。



         ――――わたしは…この人を知っている。



         「…緋真…様」


         亡くなったはずの白哉の先妻、緋真様が座っていた。


         「え、なっひ…ひさッ」

         「あの…私は、」

         「ひゃッ!!」


         相手の声にビクッと肩を震わせ、戸に身を隠した。

         顔を半分だけ出し、相手を恐る恐る覗く。



         ――――な、なんで緋真様が…わた、わたしどうしたら…あっ朽木隊長に!



         白哉に報告しないとと思い、できる限りの速さで駆け出した。







         「朽木隊ちょ…じゃなくて白哉様ッ」


         白哉の姿を見つけるなり、名を叫び白哉の着物を掴んだ。


         「なのごとだ、騒がしい」

         「はぁ、はッ。 早くっ大変なんです!」


         主語も主旨もないめちゃくちゃな言葉に訳のわからないまま強引にに手を

         先程の部屋に連れて行かれていった。

         戸の前まで来ると、白哉の背中に身を隠した。


         「どうしたというのだ?」

         「おぉ…お落ち着いて聞いてください」

         「その前に、おまえが落ち着かぬか」

         「…中に緋真さまがおいでなんです」

         「何を言い出すかと思えば…アレはとうに死んで…」

         「でもっいらっしゃるんです!」


         白哉の袖の裾を握りしめてくるは微かに怯えている様に見えた。

         目で開けてくださいとすすめてくる。

         仕方なく戸を開けてゆく。

         戸が開く音にぎゅっと目を瞑った。








        

















       *あとがき*
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