それは激しく雨が降り続く真夜中のことだった。












         を拾った日










        勤務が終わり、真夜中の道を一人歩き、傘からは降る雨が激しくぶつかっている。

        そんな道を歩くギンの前に一つの影が目に入ってきた。

        近寄ってみるとそれは死体のように倒れている一人の女の姿。

        無視して通り過ぎようとすると、ピクリと手が動いた。

        意識はない、無意識に…それは助けを求めるかのような小さなケイレン。


        「なんや…?」


        雨に消されるほど小さく荒い呼吸をする女を乱暴に肩に担ぎ上げた。

        雨に濡れた女の露が肩に浸食していく。

        それが何だか心地よかった。

        何で助けたなんて理由はない。

        平凡過ぎる退屈な毎日に変化を与えたかっただけだから。










        2日経ってようやく女は目を覚ました。


        「……?……っ?!」


        起きるなり小動物のようにきょろきょろ辺りを見回し、そしてようやく入り口の近くの

        柱に背を預け座っているギンを見つけた。

        ギンを見るなりビクリと肩を振るわせ、表情に恐怖を浮かべた。

        まだ何もしてへんはずやのに。


        「おはようさん」

        「……っ!」

        「ん?」

        「っ!!」


        声を駆けただけでギュっと目を閉じてしまった。


        「キミ、ボクの家の近くで倒れててん。面倒やからウチで寝かせてたんやけど…。

         ボクの言うてる意味分かる?」

        「………」


        分かっているのか、分かっていないのか…。

        女はただ俯いたまま何も反応してこない。

        「ふぅ」と息をもらし、俯く相手の震える様子を観察する。

        こんな様子で家から追い出すわけにもいかない。


        「飲み」

        「!」


        剣八の横に置いていた水の入った湯のみを女の枕もとに差し出した。

        湯のみ置くために手を伸ばした瞬間目を瞑り体を強張らせたが、ただの水だと分かると

        少し警戒を緩めさせた。

        そして恐る恐るギン見上げた。


        「2日も寝てたんやで、喉かわいてるやろ?」

        「……。」


        渡された湯のみに鼻を近づけ、水を動物がするようにクンクンとにおいをかぐ。

        そして、すこしだけ中の水を味見した。

        普通の水であることを確認し、勢い欲ごくごくと喉へ水を流し込んでいった。


        「猫みたいや、捨て猫拾うてきた心境ってこんなんなんやろか」


        口の端を吊り上げニイと笑った。

        退屈だった毎日に一つの光が見えた気がした……。








        

















         *あとがき*
         ギンちゃん長編初めてみました。
         名前出てない;