彼女がここへ来て数日だった。

        数日経ち、彼女の警戒心は少しずつ解かれつつあった。

        なかなか懐こうとしない猫に手を煩わせ、ギンはそれを楽しんでいた。












         










        「なぁ」

        「?」


        声をかけただけなら警戒心を向けてこなくなった。

        しかし、相変わらずだまったままで声を発そうとしない。

        そもそもしゃべれないのか、しゃべれるのかさえも分からないでいた。


        「名前なんて言うん?名前がないと呼びにくいやん」

        「……」

        「キミ、しゃべられへんの?」

        「……」

        「無いんなら勝手につけるで?ミケとかシロとか」

        「……..。」

        「ん?」

        「…………」


        拾った時と同じ、か細く消えそうな声が微かに、しかししっかりと耳に入ってきた。

        聞こえて来た声に何でか嬉しくて自然と顔の筋肉が緩む。


        「しゃべれるやん……、ええ名前やね」

        「……」


        そういわれ、ヒロコは俯きキュっと唇をかみしめた。

        照れ隠しをする様に。

        少なくともギンにはそう見えた。


        「ボクは市丸ギン。護廷十三番隊におって、こう見えても三番隊の隊長さんしてるんやで」


        ギンの職業を聞くなりパチッと目を開き、口は半開き状態になっていた。

        無口なくせに分かりやすい表情の変化を見せる様子にくくっと笑いが込み上げてくる。


        「そんな驚かんでもええのに。…死神は嫌い?」


        そう言うとフルフルと首を振り、否定してきた。

        否定しつつも複雑そうな顔を浮かべギンから視線をそらした。


        「さぁ、ご飯にしよか」


        ギンはそんな様子に気づかないフリをしてそう言うと

        はコクンと頷き何も言わず、小走りで台所へ向かっていった。


        「なんや?ご飯でも作ってくるんか…」


        料理は出来きたのかと思いながらギンも立ち上がった。

        と大分距離をあけ、台所へ向かった。

        「近づいたり触ろうとすれば半端なく怖がる」これがこの2日でわかったことだった。

        の過去になにがあったか知らないけれど、それでも何となく予想はつく。

        人間を恐れているのか…それとも男を恐れているのか…。




        台所へ向かったギンは目の前に広がることにに驚きを隠せないでいた。

        「料理は出来たのか」というイメージは一瞬にして崩れ去っていく。


        「………何、つくるつもりや?」

        「……っ!!」


        台所の入り口にギンが立ってると知らなかったのかビックリし、は持っていた皮むき器を

        落としてしまった。

        まな板の上は一口では入りきらないような大きさに切られた人参…大根。

        明らかに料理が出来る人の切り方ではない。


        「料理…できひんのにやろうとしたん?」

        「……」

        「はぁ…」


        溜息をつくと猫が耳を垂れさせる格好を思い起こさせる表情と雰囲気を出し始めていた。

        本当に猫みたいな子だと改めて可笑しくなってくる。


        「もうエエよ、酒でも飲も」

        「?」

        「おいで。飲めないなんて言わせへんで」


        戸棚に閉まっていた酒瓶を取り出し、に見せた。

        困惑するは断るこも出来きず、ギンのあとを付いて行くしかなかった。








        

















         *あとがき*
          2話目、ちょっと心開いてみる。