静かな同上の片隅では一人素振りを続けている。

        言われた1000回まであと少しまできていた。

        ここ最近は、ずっと辛い鍛錬をさせられ嫌で仕方なかったが、ここまで来てこの辛さ

        の中に少しの楽しみを見つけ出していた。

        斬魄刀の代わりの木刀を振り下ろした時の風を切る音が心地よくて、その音が妙に好

        きで、一際いい音が聞こえるともっといい音が聞きたくなり汗を拭う暇も惜しんで一

        心不乱に振り続ける。

        汗はあごを伝いぽつぽつと落ちては床に小さな水たまりを作っていく。


        「1997っ … 1998ぃ、ふっ 1999… 2000っ!」


        2000本を振り終えると同時に床へ崩れこむ様にして倒れた。

        始めてどれぐらいの時が過ぎたのか分からない。

        それぐらい振り続けた腕は、悲鳴を上げているかのように微かにけいれんを起こして

        いる。


        「ふぁー・・・っ 疲れ、た」


        息を荒げながら天井を見上げた。

        やり遂げた満足感から自然と表情が笑顔に変わっていく。


        「こんなに練習した事ないや…この前までの私じゃ考えらんない」


        最初から出来ないって分かってたから、こんなに必死になれなかった。


        「ふふ、ちょっと筋肉ついてきたかも」


        他の隊員達に比べたらまだまだ筋肉なんて言えるものじゃないけれど、お腹も腕も、

        力を入れれば前よりずっと硬くなった。



        「ー。次第二訓練所だぞ」


        ちょうど前を通りかかった一角が声をかけてくれた。

        一角は入隊当時から何かと面倒を見てくれる頼もしい先輩で、分からない事ばかりの

        は感謝してもしきれない存在だった。


        「あぶない、忘れるところでした」


        「だと思ったぜ、まったく隊長の言ってった通りだな」

        「隊長?隊長がどうかしたんですか?」

        「いや、こっちの話。とろとろしてないで行くぞ」

        「はい」


        起き上がり、木刀を拾い上げ一角の方にかけよっていく。

        次は隊員同士で木刀で打ちあう訓練だ。

        剣道のなんでも有りのようなもので、蹴りなんかも茶飯事に飛びだしてくる実践向け

        なもの。

        はこの訓練で当たり前だけれど一度も勝ったことがなく一本すら入れた事が無い。

        見事なまでに秒殺されつばかり。

        ここには防具なんてないし、手加減だってしてもらえない。

        たぶん十一番隊に手加減なんて言葉は存在しないんじゃないかとさえ思える。

        だから、声も出ないぐらい痛い時も度々あり、痣も出来放題、し放題。


        「今日は一本でも入れられるといいな」

        「だといいんですけど」


        親はそう言ってくれるが、今日もだめだめな事は容易に予想がついてしまう。


        「毎日あんなに頑張ってんだから大丈夫だっての」

        「あ ありがとうございます」


        普段ほめられることなんて滅多にない為、こういう風に言われるとくすぐったくて

        恥ずかしいのを誤魔化すように顔を押さえた。

        ここで日々辛い鍛錬しているのはだけじゃない、十一番隊ではみんなが当り前に

        している事できっとの鍛錬なんてまだまだ甘い方なんだろう。

        そんな人に、褒められるとすごく嬉しい。



        ―――よし、今日こそ一本取れるように頑張らなくちゃ!














        ―――バシッ

        ―――ドンッ



        「っ…いたたたた」


        「大丈夫かい?」


        弓親はしりもちを着いているに優しく手を伸ばす。


        「ありがとうございます」


        頑張っている、頑張ってはいるが本日4人目の惨敗。

        誰からも見事な一発をお見舞いされてしまった。

        今日はいつにも増して隊員達の活気にあふれている。


        「弓親さん、今日何かあるんですか?皆やけに元気ですけど…」

        「ちゃん知らなかったのか、今日は隊長が見に来るから張り切ってるってわけ」

        「なるほど…」


        運がよければ相手してもらえるらしく、いつもはだらだらしている隊員ですらも

        いつになくやる気を見せていた。

        また何か言われそうで嫌だなぁと思いながら、痛いところをさすりつつ次の相手の

        前にでた。

        帰ったら湿布買いに行かないと。

        もう買い溜めしていた湿布が底を尽きてしまっている。


        「お願いします」


        軽く礼をして相手を伺った。

        その相手には思わず嫌そうに目を細めた。


        「チッ次はオマエかよ、ったくなんでこんな弱い奴が十一番隊にはいってんだよ」

        「… よろしくお願いします」


        同期で入隊してからの事が気に入らないらしくずっと嫌がらせをしてくる奴だ。

        反論したかったけれど、弱いのは本当の事だから言い返せなかった。



        むかつく…



        気分を入れ替えて木刀を構えるが、相手は一向に構えようとしない。


        「構えなくたって、余裕だろ」


        仲間2・3人がケラケラと笑っている。



        「うぐっ…」



        悔しい、一本入れて…ううん、倒してやるんだから

        木刀をきつく握り締め、一歩を踏み出した。









        

















        *あとがき*
         ちゃん頑張ってます!