―――思い出すのよ、気持ちいい音がした時の振り方をすれば…



         息を肺いっぱいに吸い込み、相手に向けて大きく振りかぶった。



         ―――ガキィン




         「惜しい!」


         一角の声が聞こえてくる。

         言葉通り、あと一歩の所だった、あと一歩の所をガードされてしまった。

         それでもにとっては大きな進歩だ。



         「ちったぁ上達してんじゃねーか」



         「隊長っ」


         訓練所の入り口付近にいた一角の後ろには、いつ間のまにか剣八が立っていた。

         他の隊員が剣八に気づき騒ぎ出す中、は剣八に気づくとこなく相手に集中してい

         いる。


         「んのっ!女ァッ調子乗ってんじゃねぇよ!!」


         剣八の前でに一本入れられそうになった屈辱から相手はカッと顔を赤くし、凄い
         形相で振りかぶってきた。

         その一撃をガードしとうと木刀を構えるが、



         ―――間に合わない!



         ―――バシィッ!!



         「やぁっっ……!」



         大きな音と供にの体は転がってゆき、勢い余って壁に激突してしまう。

         壁にぶつかったとき背中を強打したが、それよりも……


         顔が、頬が、背中だって すごい痛い…

         痛みから、やっとそこが打たれた場所なのだと分かった。


         「テメェ!ドコ狙ってんだ!」

         黙っていられなくなった一角が叫び駆け寄ろうとするが、剣八は一角の肩を掴んだ。


         「黙って見とけ」


         剣八にそういわれてしまっては逆らう訳にもいかず怒りを抑えるしかない。


         「弱ぇ癖に、向かって来んじゃねーよ」


         の口内に鉄の味が広がっていく。


         相手に鼻で笑われ、血を飲み込んだ時、の中で何かがプツンと切れる音がした。



         体のあちこちが痛い。

         口の中も… 

         顔も背中も・・・ 


         木刀を握りなおし、ゆらりと立ち上がる。


         「まだヤラレ足りねェってのか?!」


         「… うるさい」


         「は?」


         「うるさい、うるさいっ うるさい!いっつもっ 何なのよ!!」



         は突如と叫びながら走り出し、全身の力を木刀に注ぎ込み鋭い角度で振り降ろした。

         その時、頭の中が真っ白に染まりこの先はイマイチ覚えていなくて…

         我に返ったときには、相手は少し離れたところで倒れていた。



         「あ ぁ 私…」



         の初勝利にいっそう熱を上げて行く隊員たちの視線はに集中している。

         木刀は手から滑り落ち、音をたてて床へ転げていく。

         どうしていいのか分からなくなり、初めての勝利のはずなのに嬉しいという感情は

         一つも沸いてこなくて…

         ただ逃げたしたい衝動だけが沸いて、出口へ向けて走った。



         「待て」

         「わっ!」


         もう少しで外というのに、誰かの大きな手がの襟を掴んだ。

         「なっ」


         襟を掴んでいる相手に振り返って睨む。


         「はなしー… 隊長っ!」


         一番見られたくなかった人がそこにいて、それでも今は隊長に止められたってココ

         にはいられない…。

         体を振るうとあっけなく手は解かれ、すの隙には走りだした。

         「!」

         一角の声は今のには届く事がなかった。


         「お前ら、続けておけ いいな!」


         そう言うと剣八はの走っていった方向へ歩きだした。






         「ったく世話が焼ける」
 







        

















        *あとがき*
         短いー…