できるだけ遠くへいきたくて、無我夢中で走って、走って、息も出来ないぐらい。


         のゆもりが、200mも行かないうちに足元がもつれ、そのまま床に顔から突っ込

         んでしまった。


         「んぎゃっ! うぅ゛…」


         先程、顔を打たれたばかりなのにまたしても顔を打ってしまい、今度は鼻の頭がピ

         りぴりしみて痛い。

         おそらく皮が剥れてしまっているのだろう。

         もう踏んだり蹴ったりだ…。




         「 オイ 」



         聞き違いをしていなければ、すぐ後ろから剣八の声がしている。


         「は、はぃっ!」



         ――― 怒鳴られるっ!!



         反射的に、こけた体勢のままは頭を抱えビクリえお身を縮ませた。

         いつも怒鳴られているため今日も怒鳴られると思ったのだが、上からは一向に声が

         してこない。


         とうとう飽きられてたのかな…


         すると、剣八はようやく口を開いた。


         「んなビクつくな、誰も取って食ったりしねえよ」


         いつになく優しい声色に、手の間から剣八を盗み見た。

         髪をかきあげながら、チッとバツが悪気に舌打ちをしている。

         そんな剣八と運悪く目が合ってしまった。


         「…いつまで寝てるつもりだ?」


         「っ… う」


         そんな風に言わなくたって…これでも傷ついているのに。


         慰めてくれるのかと、少しでも期待していた自分が恥ずかしい。

         それをきっかけに涙が溢れ出し、どうにも止まらなくなってしまった。


         「ふっ ひくっ…」

         「 オイ…泣いてんのか?」


         しゃがみ込むと、うつぶせの体勢のまま泣くの顔を覗き、眉間に皺をよせた。

         泣かせるつもりは毛頭なく、いつもよりずっと優しく接しているはず…



         ―――チッ 女って訳わかんねぇ…



         「…オイ」

         「うっ うぅ…ひくっ」


         このまま廊下で泣かれるのも困ると思い、とりあえず寝そべるの体を持ち上げ、床

         に座らせてやる。


         「…ぐちゃぐちゃだな オイ」

         「っ…!ぐ、ぐちゃぐちゃってっ…ひくっ」


         言われっぱなしじゃ気がすまなくて、手元に転がっていた小さな小さな小石を剣八に

         むかって力なく投げつけた。

         それがが始めて剣八にする反撃だった。


         「元気じゃねーか」

         「う゛ー…っ 元気じゃないですっ」


         涙をふき取り、剣八に向かい


         「いたい」


         とだけ言う。


         「あァ?」

         「痛いっ、ほっぺた痛いし背中も痛いっ鼻も痛いー…」


         唇を噛み締め、瞳に涙を溜めながら剣八を見上げる。

         顔を見れば、が痛いという通り打たれた頬は赤くはれ上がり、鼻は少し皮が剥けて

         いた。

         剣八は手を伸ばし、赤くはれた頬をそっと触るとは小さく悲鳴をあげ、目を閉じて

         しまった。


         「鼻、皮剥けてんぞ」

         「うぅ…やっぱりですか」


         触って確認したいが、触るともっと痛くなってしまいそうで触れない。

         鼻の傷は治るとしても、頬が痣になってしまわないか少し心配だったりもするけれど、

         十一番隊にいる以上怪我は避けれれない事だし、本当の戦場はもっと酷い怪我をする

         ことになるのだから別にいいかな…と思う反面もあった。



         久しぶりに泣いたせいか、疲れてぼんやりと剣八の首辺りを眺めた。


         「…とりあえず四番隊行くぞ」

         「そんな、大丈夫ですよ…?」

         「うるせぇ、オマエ仮にも女だろ、」



         ―――この人は痣が残ることを心配してくれているの?

            隊長に心配なんて単語ないはずなのに…



         「んきゃっ!!」


         急に体が浮き、お腹らへんがゴツゴツすると思ったら、剣八に担がれていた。


         「お、降ろしてくださいっ!」


         足をばたつかせ暴れるがびくともしなくて、逆に怖い目つきで睨まれてしまう。

         その睨みに負け、ピッタリと抵抗をやめた。


         まだ死にたくない…




         だけど、剣八の雰囲気はいつもよりずっと怖くなくて、



         がっしりした肩と、



         大きくて角張った手は、



         思ってたより  ずっと  ずっと  温かかった。








        

















        *あとがき*
                   やっとできた…