担がれたまま四番隊に連れて行かれてしまった。
道中すれ違う隊員達は剣八を怖がりつつ、担がれているを哀れげに見上げた。
他の人の目から見れば、猛獣に捕らえられた餌に見えただろう。
何度、「降ろして欲しい」と言おうと思ったか…
言いたかったけれど、さっきの睨みを思いだすと怖くて何もいえなかった。
まだ死にたくはないから…
すると、上品そうな女性の声が聞こえて来た。
「更木隊長が四番隊の救護室にいらっしゃるなんて珍しいですわね」
「…用があるのはオレじゃねぇ、コイツの方だ」
どこかで聞いた事ある声に、誰だっただろうかと思い身を伸ばし、担がれている
肩の反対側の肩口から顔を覗かせてみる。
黒髪を前で三つ編みにした綺麗で優しそうな女性…
「 あっ 卯ノ花隊長!?」
「えぇ」
「お ぉ お世話になります、と申します」
「そう、さんね」
卯ノ花を前に剣八が「めんどくせえのに見つかった」とつぶやき、舌打ちをする
のが聞こえてくる。
「あら、顔を怪我したのね」
「あ、はい。大した傷ではないんですが…隊長が…」
「あ?オレが何だ」
「いっいえ何もありません」
剣八の視線からさっと逃げる。
また舌打ちをして肩からを降ろし、卯ノ花の前に差し出した。
育ちの良さそうな雰囲気と気品を漂わせる卯ノ花を前に、毎日十一番隊という男
臭いなかで生活してきたは慣れない雰囲気に緊張してしまう。
「十一番隊は男の方ばかりで何かと大変でしょう?」
「はい、大変で…でも、始めの頃よりはずっと平気なので大丈夫です」
「そう、良かったわね」
すると卯ノ花の手がの頬の数センチ近くまで伸びてきた。
そして、指から腫れた部分を覆うように温かい霊気が流れ始めた。
「口の中まで切れているけれど、このぐらいなら心配ないわ」
「すごい…霊圧を当てただけで…」
「ふふふ、今治しましょう」
「 は はい」
その温かい霊圧はみるみる内に頬の腫れをひかせ、口の中の切れた部分をも消し
ていった。
そんな早業に呆然と目を奪われる。
四番隊に配属になった友人によく傷や痣の手当てをしてもらっていたが、こんな
短時間で治してもらったことはない。
―――これが…隊長格の力
心地よい感覚に包まれていたそこは跡形もなく元通りになった。
「こんなものでいいでしょう」
「ありがとうございます、卯ノ花隊長自らしていただけるなんて」
「そう言ってもらえると嬉しいわ、はいコレでお終い」
薬袋からばんそうこを取り出し、の鼻の頭にぺたりと張った。
「そこは治さねぇのか?」
剣八が不満そうに言うと、
「こっちの方が可愛らしいでしょう?」
「はぁ?」
「え?!」
と剣八の声が見事にかぶった。
剣八の方を振り向き、また剣八もの顔を覗き込んだ。
「か、かわいいですか?」
「 ……… 」
「…冗談です」
「はっ」
「なっ 酷い…」
鼻で笑われてしまい、ちょっとショックだった。
卯ノ花はそんな二人を微笑ましげに見つめた。
「終わったんならさっさと帰るぞ」
「アイタっ」
の頭をこつんと小突き、歩かせる。
「卯ノ花隊長、ありがとう御座いました」
「気をつけて」
深々と礼をして再び元来た道を歩きはじめた。
「更木隊長…」
「…何だ?」
「あの子、さん…今はまだまだ弱いかもしれないけど、きっと強い死神
なります。そんな霊圧を彼女は持っているようだわ。
ですから、そうなるまで守ってあげてくださいね。
あの子はまだ肉体面でも、精神面でも弱い子だから…」
「・・・あぁ、分かってる」
先を歩いていたは、剣八が来ない事に気づき不思議そうに振り返ってきた。
「あの…どうかなさったんですか?」
「なんでもねぇ、とっとと帰るぞ」
「わぁっ、はいっ」
大きな歩幅の剣八は直ぐに追いつき、の背中を強い力で押す。
前のめりになり、倒れそうになるのを必死に堪えこけるのを避ける。
「た、隊長、更木隊長…」
一歩後ろを歩くから遠慮がちな声が聞こえて来た。
「あァ?」
「更木隊長もありがとうございました」
大きな背中を見つめながらそう言った。
思えばいつも剣八の背中ばかり見ている気がする。
「…お前の力を考えれりゃ、あの場面でで止めとくべきだった」
「そ、そんなっ こうなったのは私のせいですから…私の力がないせいで」
「けど、あの時 お前の放ってた霊圧に久々におもしれえ感じがした…」
剣八の言葉に目を見開く。
―――わたしの霊圧が…
「弱ええのには変わりねぇがな」
顔の表情は分からなかったけれど、剣八がよくする口の端を吊り上げてニヤ
リと笑うあの笑みを浮かべているのが容易に想像できた。
―――よかった…またあの頃みたいに呆れさせて、失望されたかと思った…
まだ、大丈夫だよね…。
先ほどからずっと身にのしかかっていた不安という錘が一つ取れた気がする。
と同時に、落ちこぼれな私でも更木隊長を楽しませれたことの嬉しさが込み上
げてくる。
その嬉さが単純に嬉しかった。
こんなに嬉しく感じるのは他でもない、剣八だから。
だから、剣八に少しでも認めてもらえるように
強くなりたい
このとき死神になって初めて強くなりたいと望んだ。
*あとがき*
素直な剣八に…キャラが違う;
ひぃぃ…