今日も与えられた鍛錬をこなし、キモチイイほどの汗をかいて戻ってきた頃には

         お昼をとうに回っていた。


         「ただいま戻りました」

         「あッ ちゃんお疲れさまー」


         の姿を見るなり、副隊長のやちるはぴょんぴょんと跳ねながら元気よく飛びつ

         いてきた。

         そんな可愛らしいやちるの頭をよしよしと撫ぜて迎える。


         「あ、更木隊長どちらにいらっしゃいますか?終わったこと報告しないと」

         「剣ちゃんは隊長室っ!」

         「じゃぁ行ってみますね」

         「ちゃんと一緒に行きたいけど、やちる立ち入り禁止って言われてるから行けな

          いやぁ」


         拗ねた顔で頬を膨らませ、つまんないのと愚痴を零した。


         「そうなんですか…大切な任務中かな、とりあえず行くだけ行ってみますね」

         「うんッ 待ってるね」


         桃色の髪を揺らし、から離れたやちるに見送れ、鍛錬が終わったことの報告だけ

         なら大丈夫だろうと思い隊長室へ向かった。

         この時、何で隊長が戻ってくるまで待っておかなかったのかと後悔することになる

         とこの時のは思いもしなかった。










         四番隊救護室に運ばれて以来、の中で剣八に対する思いが変化していた。

         ただ怖くて、逆らったら殺されるという思いが九割を占めていたが、今ではその

         恐怖も半分程度の四、五割に減っている。

         といっても完全に怖くなくなった訳ではないのだが。

         そして、それに加えて温かい感情も生まれていた。

         一緒にいるときに感じてしまう、恐怖とはまったくちがうドキドキがあった。


         「隊長に恋……恋…まさかね」


         考えれば考える程恋しているという確信に深まる一方で、これ以上考えるのが怖

         て考えないようにふるふると頭を振った。


         隊長室の戸を叩き、深呼吸をする。


         「あ?」


         中から気の抜けた剣八の声が聞こえてきた。


         「です、失礼しま……わっ!!」


         戸に手をかけた瞬間、戸が開き筋肉質な大きな体が正面に現われた。

         胸元を乱す剣八の服装に顔が赤く染まっていく。


         「おい…何の用だ」

         「あ、あ あの言われた鍛錬が終わりましたので報告に」



         ――――前っ 前治して! 心臓に悪いから



         の心の叫びもむなしく、前を乱したままで視線のやり場に困っていると入り口を

         体で隠すように立っていた剣八の腕の隙間から中にだれかが居るのが見えた。


         「お客様がおいでですか?」

         「そんなんじゃねーよ、報告が終わったんならさっさと帰れ」

         「?…はい」


         不自然な剣八に釈然としないまま帰ろうとしたとき、中にいた人物が姿を見せてきた。


         「…………はぇ?!」

         「オィ!出てくんなつっただろ」


         目の前の光景に口をあけたまま固ってしまう。

         出てきたのは剣八以上に服を乱した可愛い顔をした美女。

         当然であるように剣八の腕に自分の腕を絡め、見せつけてくる。

         にやんわりと、けれど勝ち誇ったような笑みが向けられた。


         「離れろ」

         「冷たぁい」


         さらに固まっていたは、はっと我に変えると剣八と美女を見比べ納得する。


         「あ、あぁー… お楽しみ中、失礼しましたっ」


         引きつった顔に笑いを貼り付け、ぎこちない足取りで来た道を戻り始める。


         「っ!」


         剣八の呼ぶ声が聞こえたけれど、耳を塞いで聞こえない振りをした。






         「チッ」


         舌打ちを打ち、腕にからめられた腕を払いのけた。


         「おもしろい子ー」

         「あァ?」

         「ふぅん…剣八隊長ってああゆう子が好がタイプなんですね」

         「お前も用が済んだんならとっとと帰れ、二度と顔を見せるな」


         殺気を放ちながら女を睨みつけた。

         女はひっと短く悲鳴をあげ、


         「ちょっと意地悪しただけよ…私には表情ひとつ変えたことないのに、あの子に

          は色んな表情見せるから」


         それだけ言うと着物の前を直し、その場から立ち去っていった。


         「チッ 面倒な時に来やがって……」










        

















         *あとがき*
          修羅場っぽいのUP。
          ……笑ってごまかすしかない;