更木隊長と女の人の姿。

         脳裏に何度も浮かんで離れてくれない。

         仕事にも集中できず、ただ筆を墨に付けでは離し、離しては付けを無意識に繰り

         返していた。

         正確に言えば、パニックに陥っていた。


         「うー…あー…あれは隊長の彼女だよね?多分…で、でも何であんな時間に。

          …時間は関係ないか、うー…ん」


         何度もループする考えに、頭のなかがごちゃごちゃしてくる。


         「…………はぁ」


         更木隊長は隊長なのだから、言い寄ってくる女に人なんて何人もいて、彼女だっ

         ていたっておかしくない事で。


         「やだやだ、もう…」


         筆を置き、机にうつ伏せに顔を伏せる。



         「なんか…苦しい」


         胸が締めつけられ、痛くて、それに息苦しい。

         このまま溶けてなくなってしまったらどんなに楽だろうか。


         「なんだ?陰気くせぇな」

         「あわっ、たっ、ざ、更木隊長!きょ、今日もいいお天気でっ」

         「は?あー…まぁいい天気だけど」


         動揺するに剣八は何事もなかったかのような態度で話し掛けてきた。

         どう接していいかわからず、剣八のように何もなかったかのようにするべきなの

         か分からないでいると、


         「ちょっと来い」

         「あ、あぁ…はい」


         顎で外に来いと言われ、そろそろと後ろを付いて行った。



         ―――どうしよ…きっと、さっきの事だよね…。



         「なんで呼び出されたかは…分かるな。あいつは…」

         「わ、わかってます!わたし誰にも言いいませんので…大丈夫ですから…」


         最後になるに連れて小さくなってゆく声と共に顔も下を向いてゆく。

         これ以上聞きたくない。

         あの女性が誰なのかなんて知りたくない。

         彼女だなんて言われたら、わたしは……


         「あァ?」

         「ですので…失礼します!」

         「おい!」


         早足で部屋へ戻っていくに手を伸ばすが、掴むことなく引っ込ませた。


         「んだアレ、なんであんな顔するんだ…あれじゃまるで…チッ」


         言いかけた言葉を飲み込んだ。

         もし、そうなのだとしたら…あいつを、を傷つけてしまっている。


         「気分わりぃ」


         こうなったとき、どう接していいのか、どうフォローしていいか知らない。








         「逃げてばっかりだ…」


         剣八絡みになるとどうも逃げてしまう。

         逃げるつもりなんてないのに…。

         これでは好かれるどころか、嫌われてしまう。

         そんなことを考えていると、乱暴に戸が開けられた。

         何かと驚き振り向けば、かわしたはずの剣八が仁王立ちしており、不機嫌さを隠

         すことなく表情に出している。


         「ま、まだなにか…」

         「話の途中で逃げてんじゃねぇよ」


         今度は逃がさぬようにの顔の横の壁に手を突き出してきた。


         「おまえがどう思ったぁ知らないが…あの女は別に何でもねぇ」



         ――――チッ、なんでこんな奴の為に必死で言い訳してんだ…。



         「なんでもないって…隊長はなんでもない人とあんな事してるんですか…?」

         「なんでそうなる、向こうが勝手にしてくるだけだ」

         「でも…それを拒まないのって…」

         「うるせえな。なんでオレがこんな事てめぇに説明しなきゃなんねぇんだ」

         「えっえ?」


         苛立ちのピークを迎えた剣八は、更に不機嫌オーラを放ってゆく。

         切れ始めた剣八に戸惑いを隠せずにおろおろしていると、剣八は切れたまま、また

         部屋をでていってしまった。


         「なっ…逆、切れ…?」


         分かったのは、あの女性は剣八の彼女でも愛人でもなかったことと、思ってたよ

         り遥にきれやすい…というか…子どもっぽいと思った。

         そのあと何でか息苦しさは消えていた。








        

















         *あとがき*
          修羅場っぽいのの続きUP。